| 文明化の様相を表に従って展望してみましよう。最も激烈な変化はクリオージャに起こりました。クリオージャは新大陸が発見された15世紀末、早くも宣教師とともにヨーロッパから移植された品種のなかで、唯一、異風土に根づき、多くの入植者達の生活の糧となったブドウです。この品種がヨーロッパの代表的な醸造用ブドウにその地位を譲るのは、アメリカでは1862年、オーガストン・ハラスティが、チリでは1851午、シルベストーレ・オチャガビアが、それぞれヨーロッパからフランス系品種を中心に大規模な再導入をはかってからのことです。アルゼンチンではブエノスアイレス、メンドーサ間に鉄道が開通した1855年以後ではないかと思われます。 しかし、それから1世紀以上たった1970年代、南米ではこのブドウが依然として最も有力な栽培品種であり続けていました。そして、その後の10年間で激減したのです。アルゼンチン、チリ両回の国内消費が減退し、販路を海外に求めざるをえなくなった時、まるで山が動くように、一気に文明化へむけて品種の更新は進んだのです。これは量から質への転換です。質を追究するということは、世界の大都市、特にワイン文化圏の外にあるロンドンやニューヨークの市場で評価されるものを目指す、という意味です。 南米に限らず、新興ワイン産地では、いまや地場の消普よりもグローバルなマーケットにむけて、いかに酒質を高めるか競い合っています。具体的にいうと、どういうことか。カベルネやシャルドネのワインが、ボルドーやブルゴーニュ以外の産地から続々登場してくる今日の状況、それがまさにそうなのです。 ではなぜカベルネとシャルドネなのか。メドックの赤、ブルゴーニュの白。このニつは文句なしに、世界中に知れわたったワインです。地酒でありながら普遍性を獲得したワインです。それは、「文化」として在る地酒が文明化したということなんですね。「文明」としてのワインは、都市文化に組み込まれます。そのプロセスが「洗練化」です。地方の産物が磨きをかけられて、右から玉に変わる。大事なのは、玉に変わる右であるかどうか、ということです。カベルネ・ソーヴィニヨンは、人間がワインとの係わりの中で最初に見つけた「玉に変わる石」だったのです。そして、その次がシャルドネでした。 ワインを「文化」としてみる限り、それは動かすことのできない「土地」の上に形成されたもの、「お国自慢」の土産品なんです。ところが、そのワインの特性を原料ブドウの品種に由来すると思いこめば、カベルネやシャルドネが、どうしてメドックやシャブリ、或はコート・ドールでなければならないのか、もしかしたら、もっと恵まれた風土があるかもしれない、と考えるようになります。土地への帰属性が薄くなることが、ここでは文明化なんです。それを促した「品種」は、どこへでも移植できますから、1980年以降、世界のワインは文明化へ向かって、栽培する品種の一大変革が巻き起こったのです。 |