| まずアイレン。この隠れた大品種は依然として第1位を保っています。スペインのほぼ中央、ラマンチャの乾ききった地域は草地に強いこの品種しか生き残れなかったのです。昔は酸化した重い白ワインよりほかになかったのですが、最近は低温発酵でフレッシュな早飲みの軽いワインがつくられるようになりました。しかし、昔からこの人里の白ワインがどうやって消費されていたのかといいますと、第一にブランデーの原料。シェリーのフオーティフィケーションに使われるグレープ・スピリッツもここから供給されています。次は濃厚な赤ワインとブレンドして、飲みやすい軽い赤ワインとする、一種の希釈用ですね。こうした用途があるので、アイレンはしぶとく年き残っているのです。もちろん、苛酷な自然環境に対しても、アイレン以上に強い品種はないといっていいでしょう。雨量は年間350mm程度で、冬はマイナス20℃、夏は450℃にまで達する広漠とした台地に暮らす人達がアイレンを選び出したのです。これを、粗野なブドウでいい加減なワインづくりをしていると見てはいけません。 アイレンに次いで広大な面積を持つ品種はガルナッナャ・ティンタ。これはスペインでの呼称で、フランスではグルナッシュといいます。シャトーヌフ・デュ・パープやタベルの原料ブドウとしてよく知られた品種です。かつてアラゴン王国の領域で栽培されていたので、スペインとフランスに分かれていますが、異風土へ伝播したとはいえません。 カリーニャンが5位から3位へ上がったのはちょっと意外でした。この10年の変化の基調は、オーディナリーワインの退潮とクオリティーワインの進出が原料ブドウの品種に反映したものであるからです。その点からいえばカリーニャンの栽培面積が増加したことは時代の趨勢に逆行しているように見えます。しかし、これはより低位の品種アラモンの改植による過渡的な現象とみてよいでしょう。最近、ヴァン・ド・ペイ・ドックの存在が急に話題となり始めたのは、ポスト・カリーニャンへ向けて、次の段階へ移行しつつあることを示しているのです。 4位のトレビアーノは減少しているものの順位は変わっていません。この品種の別名はユニ・ブラン。コニャックの原料です。イタリアでは白ワインの原料として最も広範囲に大量に用いられていますが、ポテンシャルの高いブドウではありません。 この表を眺めて、まず気がつくのは、1980年から1990年までの10年間、比較的安定した状態で栽培面積の上位を占めたのは、決して有名とはいえない、地域性の強い4品種だということです。これは、私達日本人のワイン常識の盲点を突いているんじゃないでしょうか。そもそも、過去にそれだけ集中して栽培地が形成されたのはなぜか。その品種に強固な存在理由があるということなんですね。それは、そこでブドウを栽培している人達の「文化」の問題なんです。高品質のワインを醸造しようというのは、ワイン文化の上部構造で例えば、アイレンの白ワインはおいしくないからシャルドネに改植しようなんて、簡単に言えることではないんです。 それでも、ベスト20の品種は下位へ行くほど顕著に淘汰が進んでいます。ここでいう淘汰とは、その地域に固有の土着化した品種が畑ごと消滅するか、或いは評価の高い他の品種に改植されるかです。カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネが世界的に広まったことには、新しい栽培地の展開もあったのですが、表に示されたここ10年間の品種交替を総括すれば、「ブドウ畑における文明化が、過去に例をみない急激な速さで進行した」ということになります。 |