余話。その2
                                                  
品種を巡るパラドックス
-カベルネとシャルドネは究極の品種なのか(2-1)−
 
 
 ワインはたいへん種類が多く、性質も様々ですが、私達は昔からワインを産地名で呼ぶことによって、それらを区別してきました。産地は単なる地名ではなく、その土地の地勢や土質、気象、栽培されている品種など、ワインの性質を形成するいろいろな要素の総称だったのです。
 前回は、ジャンシス・ロビンソンの著書から醸造用ブドウの品種別栽培面積上位20種とその国別内訳の表を引用して、産地が動かない品種と、拡散する品種のあることをお話しました。このニつに分かれた品種は、それぞれ、土着の文化として在り続けるワインと文明化していくワイン、に対応します。
 後者について具体的に品種名を挙げますと、カベルネ・ソーヴィニヨン、マスカット、メルロー、セミヨン、リースリング、いずれもよく知られたものばかりです。しかし、これらと同じくらいよく知られた名前、シャルドネ、ピノ・ノアール、ソーヴィニヨン・ブランはありません。1980年当時、これらの品種はまだ本格的な拡散、これをdiffusionと呼んでいますが、それはまだ始まっていないのです。
 余談になりますが、このdiffusionという言葉は、文化人類学で「異質文化間の文化の伝播」という意味で使われます。ワイン文化圏の外へワイン醸造を目的にブドウ栽培が広がっていくことは、ただ単に「拡散」と呼ぶよりももっと深いニュアンスを持っています。
 シャルドネの拡散は、カベルネ、メルローになぜ遅れをとったのか。赤ワインに比べておそらく今ほどに辛口の白は関心を持たれていなかったからではないでしょうか。シャルドネという品種の存在感も、セミヨンと比較すれば、なにか模糊としたところがありました。1940年代には、まだPinot Cahrdonnayと呼ばれていましたし、それはPinot Blancとしばしば混同されました。ピノ・ブランは、ピノ・ノアールの突然変異種といわれるピノ・グリから、さらに変異して19世紀初頭に出現したものだそうです。
 シャルドネは、マコンにシャルドネという名前の村があって、そこが発祥地だという話もあるのですが、太古からそこにブドウが自生していたわけではありません。西欧のブドウは中近東から人間が持ちこんできたものです。シャルドネもそのような古い時代の品種だという説が有力です。土着のシャルドネがレバノンにあることから、いつの時代か、ブルゴーニュまで運ばれてきたのでしょう。たまたま、そこには外見の非常によく似たピノ系のブドウがあったため、シャルドネという固有の品種であることを明確に見分けられなかったのですね。それと、今ほどにワインの特質を品種と結びつけて語ることはなかったので、ブドウに対する関心も薄かったのだと思います。


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