余話。その2
                                     
品種を巡るパラドックス
-カベルネとシャルドネは究極の品種なのか(6)−

 ワインの原料として用いられるブドウには土着型の品種と普遍化していく品種があることがわかりました。

 グローバルに見れば、ワイン消費のヴォリュームを支えているのは土着型の品種です。私達、ワイン文化圏の外側にいる者が知らずにいるブドウであり、ワインであります。これは文化として存在するものです。

 一方、普遍化していく品種は、分散した産地の面積が意外に小さいにもかかわらず、存在感は非常に大きいということも、このが教えてくれます。1980年代、ノーブル・グレープとして世界的に認知されているピノ・ノアール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなどは、上位20品種に、まだ登場していません。

 すでに産地が拡散している品種のワインは、それだけ広範囲に各地で醸造されているわけです。最近、とみに台頭いちじるしい新世界のワインはそれに当たりますが、この躍進よりを敢えて解説すれば、「品種」を梃子として文明化が急速に進んだからだということです。

 しかし、「文明化」は新興産地のワインが「良質」であることを保証するものではありません。核心は、なぜカベルネ・ソーヴィニヨンやリースリングが文明化したか、ということの方にあります。選ばれた品種がすぐれていたからこそ、新興産地は注目されるようになったのです。

 では、なぜ選ばれたのか。その品種が普遍化する要因を考えてみましょう。

 第1は、その品種が発信している情報の量と質の高さです。昔、それは産地の名声として表現されていました。先の表にボルドーの品種がブルゴーニュの品種をおさえて登場しているのは、フランスのワイン産地が国外に向けて発進する情報の量において勝っていたからです。

 そのことを確かめるには少なくとも200年以前まで溯って様子をみなければなりません。すると、単なる産地の風聞は、いかなる媒体によって広まったのかがわかります。それは宮廷や上流階級の好みであり、知識階級に流布されるワイン書です。そして、その名声が商品として産地の外へ動くこと、つまり取引数量が情報の発信量となったのです。

 ボルドー品種のうち、赤ではカベルネ・ソーヴィニヨンがメルローより早く拡散し、白ではソーヴィニヨン・ブランよりセミヨンであったのは、産地ボルドーの情報がメドックとソーテルヌに偏っていた事情を反映しているのです。

 リースリングはトロッケン・ベーレン・アウスレーゼに代表される甘口ワインの名声によるものです。マスカットはテーブル・グレープ、レーズン・グレープとして古代から広く分布していた事情があります。

 それからもう一つ、普遍化していく品種に求められる要件があります。品種が異風土へ拡散していくときの適応性がすぐれていることです。現実の畑は品種にあわせて栽培地を選定する知恵とあわせて展開していっているので、適応力の有無だけを議論しても意味がありません。とはいえ、これまでの経験から、世界的にピノ・ノアールはカベルネ、メルローより異風土での栽培はむずかしいようです。
 


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