造り手を訪ねて

レポート シャンパーニュ

メゾンのスタイルを反映する
ロゼ・シャンパーニュ
こだわりの生産家を訪ねて


BOLLINGER(ボランジェ)

●キュヴェだけを樽発酵
 今春、シャンパーニュ・ボランジェから35年ぶりのノン・ヴィンテージの新製品「ボランジェ・ロゼ」が発売されたと聞き、早速メゾンを訪ねた。
 訪問すると、まず事務所の裏手と道路の反対側に広がる「ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ」の畑に案内された。塀で囲まれた30aと15aのこの小さな畑がユニークなのは、今でもアメリカ産の台木を使わずにフランス固有の伝統品種を取り木の方式で受け継いでいることだ。そのせいか無秩序に株が地表に出ている。フィロキセラ以前のピノ・ノワールの栽培をそのままの形で見ることができる。
 収穫量は普通の畑の半分以下。だから大変よく熟す。このため、1960年代からこの畑を別に醸造して「キュヴェ ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ ブラン・ド・ノワール」を造るようになった。年に1000本程度しか生産できない貴重なボトルだ。
 この2つのクロを含めてボランジェは160haの自社畑を所有し、生産に必要な葡萄の約6割をまかなっている。「独特のスタイルを持つボランジェのシャンパーニュを造るためには、質を最大限コントロールできる自社畑の確保がどうしても必要です」と、輸出担当のヴィアネ・ファブル氏は説明する。
 自社畑はモンターニュ・ド・ランスとヴァレ・ド・ラ・マルヌ、コート・デ・ブラン3地域のグランクリュ、プルミエクリュに集中している。少し特殊なのはヴァレ・ド・ラ・マルヌの西にあるシャンヴォジ、ヴァントゥイユに約20haのピノ・ムニエの畑を持っていることだ。これらはすべて、ノン・ヴィンテージの「スペシャル・キュヴェ」に使われる。
 ボランジェの特徴は言うまでもなく、ベースワインの発酵に小樽を使っていることだ。「スペシャル・キュヴェ」には一部ステンレスタンク発酵のワインをブレンドしているが、それ以外の全ての製品と「スペシャル・キュヴェ」に使うリザーヴワインは樽で醸造する。現在使用している樽は約3000個。多くは205L、225L、228Lの小樽。これに加えて400Lサイズの古いトノーを10%程度使用している。
 樽発酵の利点はアルコール発酵中に樽の木目の微細な穴を通して軽い酸化作用が起こり、これによってタンニンの構造とアロマをより興味深いものに変えることができることだ。マロラクティック発酵の際にも、樽ごとに質の変化を見ながら細かな判断が出来る。醸造が終わったワインはさらに6~8か月樽で熟成し、翌年の春に試飲してどんなキュヴェを造るか決める。
 樽に入れて発酵させるのは圧搾果汁の約70%。キュヴェと呼ばれる一番搾りの最良の澄んだエレガントな部分のみ。二番搾り以下のタイユは他のメゾンに売り払いボランジェでは使わない。
 樽は最低でも5年以上使い古した物を使う。新樽は一つもない。中には80年~100年の樽もある。これだけ長く使うにはもちろん毎年の修理が欠かせない。そのために、ボランジェには専属の樽職人(トネリエ)を一人雇っている。
 発酵中の樽の栓を開けるとそれぞれ僅かに異なる香りがする。例えばアイはピノ・ノワールの典型的な赤い果実と僅かにタバコの香りが出ている。また、ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズは熟しているが、やや粗野なアロマだ。
 シェは一年通して15℃、湿度は72~80%に保たれている。2年前に樽醸造を完璧に行うために空調、加湿設備に多大な投資を行った。これによって発酵をコントロールし、熟成中のワインの質を安定させることができるようになったという。

●リザーヴワインの熟成はマグナム瓶で
 樽を修理するアトリエの地下にカーヴがある。18世紀に造られたものだが、周りの小さなカーヴを買い取り、繋げたので複雑な構造になっている。ここで大量のマグナム瓶を熟成している。これを見て、ボランジェはマグナムのシャンパーニュを大量に生産していると勘違いしている人が少なくない。実は、これはリザーヴワインのストックだ。
 他のシャンパン・ハウスではリザーヴワインはステンレスタンクかフードルで保管しているのが一般的だが、ボランジェではリザーヴワインをマグナム瓶で貯蔵、熟成しているのだ。ボランジェのリザーヴワインは樽で発酵させ6~7か月熟成した後、マグナム瓶に詰め替えてカーヴでさらに5~12年瓶熟成。しかも、マグナム瓶には天然コルクの栓を使っている。ボランジェによると、4~5年間ほどであればコルク栓でも王冠でも大きな差異は現れないが、それ以上になるとコルク栓のほうがブーケやアロマの発達を促す酸化反応をうまくコントロールできるのだという。また、マグナムに詰める際にほんの僅かの酵母と糖を加えるのも特徴的であり、ボトルの中で軽く発酵して生じた炭酸ガスが酸化を防ぐ役割を果たしている。これは「アンカール・ド・ムース」(4分の1の泡)と呼ばれる特殊な製法で、内部の気圧は製品化されたシャンパーニュの4分の1程度になる。
 マグナム瓶で熟成させることで特殊な味とアロマ、そして力強さを得ることができる。そしてこの味わいがスペシャル・キュヴェの個性をもたらす。マグナムボトルは、ボランジェの秘伝の調合薬ともいえる貴重なストックだ。もちろん、品種別、クリュ別、ミレジーム別に分類し熟成してある。その数40万本を超える。「スペシャル・キュヴェ」を造る際、このマグナムを毎年約6万本開けブレンドする。料理の仕上げの味付けだとボランジェでは説明するが、このリザーヴワインの瓶詰めと熟成、そして最適なマグナムの選択と抜栓に20人からなる専属チームを配している。手間と時間を惜しまず究極のシャンパーニュ造りを目指すボランジェ以外には出来ない芸当だろう。

●ピノ・ノワールの個性を反映させた「ボランジェ・ロゼ」
 2008年6月に新発売された「ボランジェ・ロゼ」はこのノン・ヴィンテージのロゼ版だ。ボランジェの名声を不動のものとしている「スペシャル・キュヴェ」をベースにして、これに赤ワインを加えて造る。品種構成はピノ・ノワール62%、シャルドネ24%、ピノ・ムニエ14%。多くのメゾンではロゼワインに10~15%の赤ワインをブレンドしているが、ボランジェ・ロゼには5%の赤ワインしか入っていない。ブルゴーニュの偉大なグランクリュのワインのような、非常に濃縮したワインを使うため、5%の赤ワインでバランスを得ることができるという。このブレンド用の赤ワインは、メゾンのすぐ後ろにあるアイの畑とモンターニュ・ド・ランスのヴェルズネの畑で特別に育てられたピノ・ノワールで造られる。熟して濃縮したアロマ、そして色の濃い赤ワインを得るために収穫量を極端に落としている。
 「ピノ・ノワールの最高のクリュ、アイで操業しているボランジェは赤ワインの造り手として多大な自負を持っています。シャンパーニュと共に、長年、ACコトー・シャンプノワの赤ワイン、ラ・コート・オーザンファンを造り続けていることからもそれが分っていただけると思う。ボランジェ・ロゼの発売に当たっては赤ワインの専門家としてのボランジェの力量を見せたいという思いがありました」と、ヴィアネ・ファブル氏。
 ボランジェに並の水準のロゼを期待する人はいない。多くのロゼはやや甘い、ドロップのようなニュアンスがあるが、ボランジェ・ロゼにはそうした俗っぽい味わいはまったくない。「我々はロゼにピノ・ノワールの個性を最大限追求しています。生の果実のニュアンスがあり、飲みやすい面もあるが、本当の高級品で、ワインをよく知っている人のロゼ」だと強調する。
 サーモン色とは異なるかなりはっきりした美しいピンク色だ。香りも新鮮で、味わいには直線的で現代的なトーンを感じる。黒い果実ではなく、フランボワーズやイチゴなど赤い果実の熟した香りがよく出ていて食欲を誘う。従来の「スペシャル・キュヴェ」よりもきりっとしているが、後口は長く、複雑さを感じる。ピノ・ノワールの力を持っているので、アペリティフとしてだけでなく、料理と合わせることも出来る。
 ロゼの生産量はスペシャル・キュヴェの3%にすぎない。今後も、他のメゾンとは異なるロゼを求めるカヴィストやレストランの需要に対応し、急激に増やすことは考えていないという。

●最低6年熟成の「ラ・グランダネ・ロゼ」
 ボランジェではヴィンテージロゼ「ラ・グランダネ・ロゼ」も造っている。こちらは、キュヴェ・プレステージの「ラ・グランダネ」のロゼ版。これが最初につくられたのは1973年産。現在市場に出ている1999年産はピノ・ノワール65%、シャルドネ35%。赤ワインのブレンド割合は8%。赤ワインは全て、アイの中心部にある1ha足らずの特別な葡萄畑「ラ・コート・オーザンファン」の葡萄を使う。そして、ブルゴーニュワインのように冷却マセラシオンと長いキュヴェゾンで抽出し、凝縮した赤ワインを造る。
 赤ワイン以外の原料葡萄は17のクリュをブレンドしており、99年産はグランクリュ82%、プルミエクリュ18%の割合。もちろん全量小樽で醸造している。
 「ラ・グランダネ・ロゼ」は瓶詰めし、天然コルクの栓をして、最低6年間熟成する。1999年産は2000年の春に瓶詰めし、2008年3月にオリ抜きしたから、丸8年寝かせたことになる。デゴルジュマンは全量手作業。このとき、熟成が完璧に行われたかどうか一本一本確認するので、熟成に問題のあるボトルが出荷される可能性は限りなくゼロに近い。ドザージュは7~9gとかなり少なく、辛口に仕上げてある。
 ほんの少し、熟成したオレンジ色。しかし、濃縮した赤ワインを使っているためしっかりしたピンク色が残っている。構造があり、力強く、アロマが濃縮している。黒い果実のアロマ、深みがあり、グランダネ特有の複雑さが感じられる。目隠しで試飲すると赤ワインを飲んでいるような印象を持つ。力があり、濃縮していると同時に、新鮮でよい酸があり、重くない。赤身の肉とも問題なく合わせることが出来るだろう。
 「グランダネ・ロゼ」は必ずしも「ラ・グランダネ」と同じ年に出されるわけではない。ピノ・ノワールが完璧に熟した年にのみ造られる。
 例えば、「グランダネ」の次のヴィンテーテージは2000年だが、「グランダネ・ロゼ」は2002年に飛ぶ。「グランダネ・ロゼ」は生産量も少なく、「グランダネ」の1割足らずだ。
 ボランジェにはこのほか「R.D」(レサマン・デゴルジェ)がある。
 「R.D」は「グランダネ」と同じキュヴェで熟成を長くし、ドザージュの量を減らしたものだが、一種のコレクションボトルであり、「ボランジェのキュヴェ・プレステージュはあくまでもグランダネ。R.Dではない」という説明だった。