UNCORK

COLUMNIST
宮嶋 勲

ネッビオーロ・アンテプリマ

 世界のジャーナリストをアルバの町に集めて、その年に新しくリリースされるネッビオーロワインを試飲させるAlba Wines Exhibitionが毎年5月初めに行われる。Gaja、Giacomo Conterno、Bruno Giacosa、Roberto Voerzio、Elio Altare などの有名生産者が参加しないため、全体的な俯瞰図を得るというわけにはいかないが、新ヴィンテージの特徴を捉えるには貴重な機会だ。今年リリースされるのは、DOCGロエーロとDOCGバルバレスコが2004年、DOCGバローロが2003年、DOCGバローロ・リゼルヴァが2001年なので、今回の試飲もこれらのヴィンテージが中心となった。Alba Wines Exhibitionの試飲と、私がテイスターを務めるエスプレッソ・イタリアワイン・ガイドブックのために6月から8月にかけて行った試飲をもとに、これらのヴィンテージのネッビオーロの印象をまとめた。

ヴィンテージ2004
  雨と雹に祟られた悪名高い2002年、暑さと旱魃に苦しんだ2003年という2年続きの困難なヴィンテージの後に来たこともあって、“ノーマルな良作年”と前評判の高かった2004年。すでにリリースされているネッビオーロ・ダルバや、品種は異なるが同じく晩熟品種のバルベーラでも2004年は良作年であることは証明済みだが、今回、ロエーロ、バルバレスコを集中的に試飲してその特徴がより明確に見えてきた。それは非常にエレガントで飲みやすく、濃厚さや緻密さには欠けるが、親しみやすいヴィンテージであるということだ。近年には珍しく夏が涼しく晩熟だったが、9月、10月前半の天候に恵まれて葡萄は見事に成熟した。最大の問題は収穫量の多さで、2003年が非常に少ない収穫量だったために、この年の生産量が爆発的に多くなるというフランスでも見られた現象がピエモンテでも起こった。バルバレスコ生産者組合の醸造責任者ジャンニ・テスタによると「摘房しても摘房しても追いつかないぐらいの生産量」だったそうで、バローロの生産者フェデリーコ・スカルテェッロによると「葡萄果の水分量が多く、果皮に対する果汁の割合が高かったヴィンテージで、収穫時に予想した以上のマストが得られた」そうである。そのため、生産量をうまく抑えられなかった生産者は、薄いワインを造ってしまった。ただ、多くの生産者が2002年を生産せず、2003年も普通の生産量の半分ぐらいになった状況下で、それなりの品質を保ちながら生産量の多かった2004年はまさに救いのヴィンテージとして歓迎されている。今飲んですでに美味しいワインも多く、1996年や1999年のように何年も飲み頃を待つ必要はない。親しみやすさと調和の取れた特徴は1998年を思い出させるが、1998年と比べるとややストラクチュアに欠けるようだ。最終的な判断は来年のバローロの試飲を待たなければならないが、2004年が食卓で楽しめるヴィンテージであることは確実である。
  印象に残ったワインは、ロエーロでは Monchiero Carbone Printi、Negro Angelo & Figli Sudisfà、バルバレスコでは、このヴィンテージの柔らかい特徴のよく出たGaja、力強く濃厚なスタイルとバランスのとれたヴィンテージがマッチしたBruno Rocca Rabajà、厳格だが繊細な Cà Romè Maria di Brun、味わい深い Cisa Asinari dei Marchesi di Gresy Gaiun、Fiorenzo Nada Rombone、Fontanabianca Sori Burdin、Cascina Luisin Rabajà、Albino Rocca Vigneto Loreto、Sottimano Fausoni であった。

ヴィンテージ2003
  去年、バルバレスコを試飲した範囲でも、このヴィンテージの困難さは明確だったが、今年、バローロを試飲してその印象はますます強まった。ヨーロッパが猛暑と旱魃に苦しんだヴィンテージで、ピエモンテの収穫も例年より2〜3週間早かった。強烈に照り付ける太陽でアントシアニンが破壊されたため、ワインの色は薄く、香りには過熟のトーンがある。暑さと乾燥で葡萄が水分を失い干し葡萄のようになっていく中、フェノール類の完全な成熟を待てずに収穫せざるを得なかったため、多くのワインには青いタンニンが残っている。一般には、より涼しい気候のセッラルンガ村、モンフォルテ村のバローロがいくらかましで、比較的暑いラ・モッラ村、バローロ村は全滅だと言われている。しかし、「除葉しない」「何回にも分けて収穫する」「例年劣るとされる南向きではない畑の葡萄を使用する」など、生産者の経験、知恵、直感が試された年であるから、生産者ごとに分けて考える必要がある。
  また、地中深く根が伸びている樹齢の高い葡萄畑は比較的旱魃に耐えた一方、樹齢の若い畑は悲劇的な状況だったので、同じ生産者でもどの畑のものであるかを慎重に見るべきだ。醸造にも注意深さが求められたヴィンテージで、激しいルモンタージュを避ける、バリック熟成期間を短くするなどの注意を怠った生産者は、アルコール度数が高く、樽香の強い、重いワインを造ってしまった。昨年のバルバレスコでも顕著だったが、いわゆる現代派とよばれる生産者にバランスの悪いワインが多く、伝統的な生産者に安心感のあるワインが多かったのは、暑いヴィンテージの2000年や1997年と同じ傾向だった。
  印象深かったワインは、伝統的スタイルのグループからは、ビロードのような柔らかさがある Bruno Giacosa Le Rocche del Falletto di Serralunga、Giuseppe Rinaldi Cannubi San Lorenzo-Ravera、Francesco Rinaldi Le Brunate、Giacomo Conterno Cascina Francia、Giacomo Brezza Sarmassa、Marcarini Brunate、近代的なスタイルからは、Roberto Voerzio Sarmassa、Chiara Boschis Cannubi、Luigi Pira Margheria、Gianfranco Alessandria San Giovanni などである。Vietti Rocche、Ferdinando Principiano Boscareto、Mario Marengo Bricco Viole、Boroli Villero なども安心できる出来であった。

ヴィンテージ2001
  この繊細で優美なヴィンテージについてはもう十分に語りつくされているが、今年リリースされるバローロやバルバレスコのリゼルヴァを試飲してみると、あらためてその素晴らしさに感心する。収穫前の3週間が涼しかったため、際立った香り高さがあり、1999年の濃厚さ、力強さはないが、1999年にみられるごつごつとした筋肉質の、ある種の武骨さはなく、ワインは緻密で一本筋の通った緊張感あふれるものが多い。実に均衡の取れたヴィンテージで、タンニンの量も多いが良質で柔らかいタンニンである。まだ閉じたままの1999ヴィンテージに対して、2001年はすでに楽しめるものもあり、若々しさに満ちたバローロ、バルバレスコの魅力を楽しむには、今最高のヴィンテージだろう。
  今年リリースされるバローロ・リゼルヴァとしては、厳格なMassolino Vigna Rionda、豊潤な Cavallotto Vignolo、Cavallotto Vigna San Giuseppe、優美さと力強さを両立させた Vietti Villero、古典的なBruno Giacosa Le Rocche del Falletto di Serralunga、エキゾティックなParusso Vecchie Vigne in Mariondino di Castiglione Falletto、Rocche dei Manzoni Vigna Cappella di Santo Stefano、Giovanni Manzone Le Gramolere など傑作が数多くある。バルバレスコ生産者組合は単一畑のリゼルヴァのうち Rabajà、Asili などを去年リリース、さらなる熟成が必要と考えた Ovello、Moccagatta などは1年遅らせて今年リリースすることにしたが、これらも規範となる見事な出来栄えである。

 さて最後にまだリリースされていないここ2年のヴィンテージだが、2005年は2001年を思い起こさせるエレガントで香り高く、繊細でフレッシュなヴィンテージで、2006年は1999年に似たストラクチュアのしっかりした筋肉質のヴィンテージという前評判である。どちらにしてもレベルは高そうで3年続きの良作年となりそうだ。