“「ムーラン・ナヴァン」は私の“娘”
「モルゴン」は私の“息子”
ルイ・ジャド社(シャトー・デ・ジャック)
栽培/醸造責任者 ギョーム・ド・カステルノー氏
ルイ・ジャド社のボージョレ・マコネ地区における栽培/醸造責任者ギョーム・ド・カステルノー氏が来日した。1954年生まれのド・カステルノー氏は17年間にわたり将校として軍務についた後、1989年に退役。ワイン造りとの関わりは1994年からで、2000年からはシャトー・デ・ジャックの栽培/醸造および経営に携わるようになった。地元の栽培家、醸造家とも密接な関係を保ちつつ、伝統的なワイン造りを実践している。
輸入元・日本リカーが開催した試飲セミナーで、ムーラン・ナ・ヴァン“シャトー・デ・ジャック”2004、モルゴン“シャトー・ド・ヴェルヴュー”2002など6種のワインを試飲しながら、ド・カステルノー氏は自らのワイン造りについて次のように語った。
●死んだ土を生き返らせる
マコネ、ボージョレの地域ではこれまで人間が土壌を傷め、土を殺してしまっていた。私はシャトー・デ・ジャックに来たとき以来、それまでとは正反対のことを畑で実施した。除草剤を極端に減らし、肥料を減らし、トラクターを小さな軽いものに変えた。こうして土壌にもういちど生命を与えただけで、葡萄樹もより自然な形で生育するようになった。
栽培法を改めたことによる変化は、まず収穫量が落ちたことに現れた。肥料を使わずに雑草と共存させるから単位収量は落ちるが、葡萄の凝縮度は上がる。
次に葡萄の複雑味が増した。根が地中奥深く達することによって、それぞれの地層の様々なミネラルを吸い上げるようになった。
三つ目は葡萄の生育リズムが太陽のリズムに合致するようになったことだ。葡萄樹は土壌からと同時に、太陽からもエネルギーを吸収しなくてはならない。太陽のリズムに従い、冬至、春分、夏至、秋分の4つの節目によって一年は区分けされるが、土壌に肥料という人工的なエネルギーを与えて(無理に)葡萄の成長を促していれば、このリズムは狂ってくる。より早く芽を出し、開花も理想的とは言えないときに起きる。収穫の時期における葡萄の状態は一番良いバランスを保っていないものになる。しかし、シャトー・デ・ジャックでは今やグリーンハーベストをやらなくとも、酸と糖とのバランスがとれた葡萄を収穫できるようになった。
最後に、こうした栽培法の変化を受けて培養酵母を使う必要もなくなった。葡萄を発酵させてワインにするための酵母は自然の中にあって、葡萄畑の中に存在している。化学物質を使うとその自然酵母を殺してしまい、醸造の際に培養酵母が必要になる。しかし自然な栽培を行なえば、葡萄に付着した酵母も元気になり、自ずとその役目を果たす。
●ボージョレ地区内に醸造所を新設
98年まで、私たちは、一番高いお金を払って、良いワインを買い付けてきたから、そうしてつくるボージョレ・ヴィラージュが一番おいしいのは当たり前だった。しかし社長のピエール・アンリ・ガジェは、それだけでは十分ではないと感じ、さらに高い品質を求めることをわれわれに命じた。ボージョレ・ヴィラージュ地区に小さな醸造所をつくり、当社で販売するボージョレ・ヴィラージュワインの3分の1をそこで醸造するようにした。こうして栽培家から葡萄を買い付けて自社で醸造するという取り組みが始まった。その結果、販売量が伸び、さらに二回にわたって生産設備を増強。現在の生産能力はそれまでの倍になった。私たちは、フランスで唯一、ガメイという単一品種の葡萄を使ったワインをつくるためだけの大きな醸造所をもっている会社ということになる。醸造所をつくったことで、ボージョレ・ヴィラージュにルイ・ジャドのスタイルを表すことが出来るようになった。またヴィンテージにかかわらず安定した質のワインを産みだせるようになった。もちろん偉大なワインはヴィンテージにより年ごとの味わいが違うけれども、ベーシックなワインはむしろ安定した品質を求められる。そのために、われわれはキュヴェごとに違ったタイプの醸造をしており、それらをブレンドすることで安定した品質のワインに仕上げている。プイィ・フュイッセと同様に、世界で一つのスタイルといえるボージョレ・ヴィラージュを造っている。
また、醸造所の新設は、ボージョレ・プリムールに対しても影響を与えた。(一般的に)ボージョレ・プリムールは醸造期間がとても短く、大体の場合はワインとして「不完全」な状態で出荷される。だから、私たちの哲学とは本来相容れないものがある。ただし、日本を含むいくつかの市場から、ボージョレ・ヌーヴォーが必要なので造って欲しいという要望を受けるに至って、私たちは、ボージョレ・ヴィラージュのキュヴェの中で一番フルーティでフレッシュなものを瓶詰し、「ボージョレ・ヴィラージュ・プリムール(ヌーボー)」として出荷することにした。
そして、それは非常に早い段階で成功をおさめた。私たちにとっては、そうしたワインこそが本物のボージョレ・ヴィラージュ・プリムールだったからだ。
●ムーラン・ナ・ヴァンとモルゴン
シャトー・デ・ジャックはムーラン・ナ・ヴァンの5つのゾーンにまたがり合計32haの畑を擁し、6種類の異なるワインを造っている。「ムーラン・ナ・ヴァン シャトー・デ・ジャック2004」は5つの異なる畑のワインをすべてブレンドしたもの。また、良い年には、さらに個性を活きたワインを特別に瓶詰めしているが、「ムーラン・ナ・ヴァン クロ・ド・ロシュグレ シャトー・デ・ジャック2004」はその一つだ。
通常の「ムーラン・ナ・ヴァン シャトー・デ・ジャック」はいうなれば“私の娘”と言えるワイン。畑は水晶、マンガンを含んだ花崗岩砂質で、この土壌の純粋性こそがワインの味わいに純粋さや上品さをもたらしている。非常に個性的な味わいで、むしろブルゴーニュのようなタイプ。非常に軽やかに思春期を迎えてそれを終え、いままさに飲んでおいしいワインだ。
これに対して「モルゴン シャトー・ド・ヴェルビュー2002」は“私の息子”と言えるようなワイン。モルゴンの畑は火山性土壌で、黒石、片岩などを含み男性的な味わいのワインを産みだす。タンニンのしっかりとした筋肉質のワインで、どちらかというとローヌのような味わいが特徴だ。
これら2種のワインの醸造法は必然的に異なる。ムーラン・ナ・ヴァンは長い時間をかけて非常にゆっくりと、「女性」が持つ上品さ、豊かさをかもしだすことがポイントに。一方、モルゴンは「乱暴」なところを上手にコントロールして、個性を生かした味わいに仕上げていきたいと思っている。