日本のワイン
日本のワインの将来を見据えて
「北海道ワイン産業の現状と将来」
山本博氏と今村直氏が講演

 「日本の国産ワインの将来を見据えて」と題し、北海道のワイン産業にフォーカスしたセミナーがおこなわれた。山本博氏と北海道ワインの今村直氏が、北海道のワイン生産の実態と将来展望を、日本ソムリエ協会関東支部の例会セミナーで講演した。

 近年になって、日本のワインへの認識を新たにしているという山本氏。『北海道のワイン』の執筆に着手した動機を、ワイナリーがもつ重要な役割のひとつ、安価で内容のあるデイリーワインを安定的に供給する産地として北海道が機能し始めたと認識したからだと話し、次のように語った。
 日常消費用ワインのレベルがあがり、多くの人がワインを飲むようになり、その上に高級ワインの世界があるのが本来の姿だろう。その意味で、北海道ワインが小樽で造る、低価格帯でいいレベルのワインは注目に値する。北海道は長野とともに良いワインを生み出す産地になった。
 温暖化にともない10年後の北海道がどのような産地になっているか。いまタスマニアが温暖化の進行で活気づいているが、北海道もまた、今後注意深く見守るべき存在だろう。
 美しい酸を備えた白ワインは寒いところでなくてはできない。北海道の可能性に注目する所以だ。北海道では、どこでもケルナーが成功している。あと5年もすれば、ドイツ水準のケルナーが生まれるかもしれない。もうひとつ、ミュラートゥルガウも注目できる。栽培は難しいが、うまく造るとよいワインができる。リースリングは世界中どこで栽培してもドイツに及ばないのが実情。リースリングは北海道にとっても今後の課題だろう。
 山ブドウの存在も北海道の特徴。いきなり原始的な葡萄をワインにしても無理がある。しかし、世界中の栽培品種が平準化していくのは寂しいことだ。十勝ワインや、ふらのワインが山ブドウとの交配品種に挑んでおり、赤で見るべきワインを生み出す可能性がある。ツヴァイゲルトレーベは、そこそこのワインができるようになっている。メルロは乙部ワインが挑戦中だ。乙部町では温暖化の影響が葡萄栽培にはっきりと現れている。
 はこだてわいんは日本トップ10の生産者。フルーツワインで成功をおさめたが、近年はスティルワインに力を入れ始めており、今後の注目ワイナリーだ。余市ワイン(日本清酒)は5年近くの中断期間があったが、これからの復活に可能性を感じさせる地力がある。ふらのワインは種苗研究所をもっており、交配種に熱心なワイナリー。ここでもケルナーはうまくいっている。
 小規模ワイナリーである、月浦ワイン(洞爺湖)と松原農園(蘭越)も訪ねるに値するワイナリーだ。月浦はドルンフェルダー(赤)でなかなかいいものを造り出した。品質面でもっと努力が必要だが、栽培を軌道に乗せた点は注目できる。栽培が難しいミュラートゥルガウに賭けているのが松原農園。ピンセットで粒選り収穫をしながら、栽培を軌道に乗せたところ。リーズナブルプライスのワインを安定供給する北海道ワインや十勝ワインの大規模ワイナリーの役割とは別に、「ワイン産地・北海道」を形成する上で、非常に面白い仕事をしていると思う。

 北海道ワイン鶴沼ワイナリーの責任者を努める今村直氏はスライドを示しながら、同社の歴史、気候条件、栽培・醸造の基本理念などをおよそ次のように報告した。
  ワインは葡萄栽培の延長線上にあるもの。日本での醸造用専用品種の栽培は非常識といわれた時代から、ドイツ系品種を植え始め、試行錯誤を繰り返しながら、豪雪地帯での葡萄栽培を軌道を乗せた。品種選択を繰り返した結果、近年は北海道に適合する品種の栽培が定着してきた。
  香りと酸味豊かな白ワインをメインすることで、北海道の優位性を出せるのでないかと考え、大規模機械化によるコストの低減や、減農薬栽培にも取り組んでいる。
  主な栽培品種は、ミュラートゥルガウ、バッカス、ケルナー、ゲヴュルツトラミナー、ヴァイスブルグンダー、リースリング、シャルドネ。赤品種ではツヴァイゲルトレーベ、レンベルガー、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)、ポルトギーザー。トロリンガーはロゼ用品種としている。
  鶴沼の葡萄畑は160ha(60区画)。緻密な粘土質が支配的な土壌の改良と排水性の確保に長年取り組んできた。土壌改良は物理的・化学的・生物的視点から進めている。60区画の土壌組成を区画単位で2年ごとに分析し、必要な改良策を講じる。現在の堆肥投入量は年間6000トン。これを1万トンまで増やす予定だ。
  2005年にハーベスターを導入し、作業効率は一気に向上した。ある段階を境に、急激に減衰するミュラートゥルガウの香り成分を保つために、収穫のタイミングが非常に重要になるが、最高のタイミングで収穫する上でもハーベスター効果はきわめて大きい。
  収穫期1か月の間に20日間で、50品種、600トンくらいを収穫する。一日当たり約30トン。人手だと一人当たり600kgしか収穫できない。50人の人手が必要になるが、小さな町でその確保は困難。そこで導入したのがハーベスター。一日30トンの収穫を一台でやってしまう。最適なタイミングを逃さずに、24時間いつでも収穫が可能になった。
  北海道で造る白ワインには、かなり良質の酸が残る。ケルナー、ミュラートゥルガウ、ヴァイスブルグンダーなど、国産ワインコンクールで高い評価を受けた白を重視していく。リースリングは、モーゼルのような優しい酸のリースリングを目標としているが、まだ時間がかかると思う。赤はツバイゲルトレーベ、レンベルガー、トロリンガーが主で、白に比べて品種が限られる。レンベルガーは北海道で特徴的な香りをだす。将来的に栽培面積を増やしたい品種だ。