コス、破格の246%値上げ
それでも売行きは好調
“この道はいつか来た道” 先行きを不安視する向きも
2003年産ボルドー・プリムールの販売がほぼ終わった。4月の段階では慎重論が強く、値下げ傾向さえ見られたが、5月初めにパーカーの評価が発表されると、一気に値上げの動きが強まり、2000年産プリムール販売の再現を見るような異常な上げ幅となった。価格高騰にもかかわらず、シャトーからネゴシアンへの販売は予想以上に順調だったといわれる。しかしその後、消費者の手までスムーズに流れていくかどうかは疑問で、1997年のように流通に在庫として滞留する可能性も否定できないという指摘もある。
「2003年産ボルドーは、100年に一度という異常な気象条件を反映してミレジームの評価が定まらず、また、中東情勢に絡んで経済が不透明な中で当初は慎重な意見が多く聞かれました。しかし、生産数量が前年に比べて20〜30%も少なく、収穫前からビッグ・ヴィンテージと騒がれ話題が先行したので、市場が質を評価すれば値上げも可能だと考えていました。そんな中でパーカーが予想以上に高い評価を発表したので、にわかに火がついて、一気に市場が加熱しました」。
あるサンジュリアンのシャトーのオーナーはプリムール商戦を振り返ってこう説明する。
3月末から4月の初旬にかけてグランクリュ同盟主催による恒例の試飲が行われ、その直後に発表された価格はいずれも前年並の抑制的なものだった。中にはシャトー・リューセックのように前年より低い価格を提示するシャトーもあった。しかし、その後10〜15%程度の値上げをしたシャトーが意外によく売れたのを見て、強気の見方が台頭し、それまで躊躇していたシャトーも値上げのチャンスを窺うようになったようだ。
衝撃的だったのはシャトー・コスデストゥルネルが前年比246%というは前代未聞の値上げを発表したことだ。続いてオゾンヌ、デュクリュ・ボカイユ、アンジェリュスなども予想をはるかに上回る価格を出した。「何かに憑かれたように値上げ競走が始まりました。加熱した競売のように、値上げが値上げを呼び、価格が実際の市場とは程遠いものになってしまったのです」。
2003年産は値上げによって需要が造られたバブル価格だとある市場関係者は説明する。一級シャトーは6月の第2週に昨年の2倍の価格を発表したが、それでも飛ぶように売れた。販売量を昨年の半分程度に絞り、枯渇感をあおったからだ。例えばラトゥールは例年第一回売りで1万5000ケース程度を出すが、今年は9000ケースを下回ったと言われる。また、ラフィットも第一回売りの量を例年より少なくし、第2回売りで価格をさらに25%上げ、150ユーロを提示した。
「ボルドー・プリムールの販売は特殊な慣行があり、ネゴシアンの翌年のシャトーからの買受枠は前年の買い取り量を基準にして決められます。従って、どんな価格でも、人気のあるシャトーは一定量引き取らざるを得ません」(シャトー・ラグランジュ、鈴田氏)。だから、ボルドー現地で取材する限りシャトーからネゴシアンへの販売は順調に進んだようにみえる。
しかし、買い手に目を向けると事情は異なる。例えば、ワインフェア向けの品揃えとしてプリムールを買う動きが目立ったフランス国内のスーパー、ハイパーはあまりの値上がりからプリムールに完全に興味を失っている。「現物が届く2年後の市場がどうなっているか読めない段階で、高騰したプリムールを買う必要は全くありません。ワインフェア用に必要なグランクリュ・クラッセのワインは実際に市場に出た段階でお買い得なワインを確保するようにネゴシアンに要請しています」。スーパー・モノプリのワイン購入責任者、J.P.アンドルエ氏は、2003年産プリムールは一切買わないと言い切る。
高級レストランでも、長く寝かさなくてはならないボルドーの高級ワインに投資する余力はなく、直ぐにテーブルに出せるワインを市場から調達する動きが強まっている。
また、ネット販売の大手、シャトー・オンラインのジャン・ミッシェル・デュリュック氏は、「2003年産のグランクリュの価格はとんでもないもの。こんな高値のワインを飲めるのは一部の特権階級だけです。質は悪くありませんが価格とは見合っていません。約150シャトーのプリムールを扱っていますが、動くのはその内の40シャトー。今年は、ボルドー・プリムールとともに、質が良く手頃な価格のブルゴーニュ赤プリムールを積極的にすすめています」と語っている。
パリのカヴィストも「今、ボルドーのネゴシアンから提示されている1級シャトーの転売価格は1本税抜きで210〜230ユーロ。昨年は90〜100ユーロでした。信じられない価格です。このあと、消費者価格がいくらになるのか、想像するだけで恐ろしくなります。本当に消費者がそんな価格を受け入れてくれるのでしょう$B$+!W$H$?$aB)$r$D$/!#
これに対して、ボルドーのネゴシアンは、「この数年、ボルドー・プリムールの販売はますます消費者をターゲットにしたものになっており、ストックは卸しが持つが、支払いは消費者が行うようになっています」という。プリムールの販売先は卸ではなく個人客で、2年後に出荷される現物のボトルが流通在庫として滞留し、行き先を失って暴落するという危険性は少なくなってきたと反論しているわけだ。
問題は、このミレジームが長期間保存できるかどうかだ。「売り手は話題にしないが、2003年産は前例のない年で、酸が異常に低く、熟成の可能性には疑問符がついたまま。難しいミレジームです」と、ボルドーワインを長年試飲しているスペシャリストは指摘する。
また、ボルドー・プリムールに詳しいカヴィストのジャン・クリストフ・エステーヴ氏は「ボルドー・プリムールの価格はますます質とはかけ離れて、市場での人気、時々の需要によって形成されるようになっています。端的な例がサンテミリオンのボーセジュール・ベコとアンジェリュスです」。価格に大きな差があるが、質的には価格の低いボーセジュール・ベコの方がむしろよいと強調する。
経済学では需要と供給で価格が決まると言われているが、ワインについては質と価格が連動しないと、徐々に市場は消費者の信頼を失い手痛い打撃を蒙ると心配する声が出ている。強気の値上げに向かった背景には、2003年産の収穫量が少なく、前年並みの売上げを確保し、シャトーの経営を維持するためには値上げは避けられないというわけだ。
また、今年は米国、英国市場の需要が旺盛で、価格高騰にもかかわらずそれを受容する環境があったことも幸いした。特に、米国市場は2000年プリムールを大量に購入した後2001年産、2002年産には興味を示さず、流通市場でボルドーのグランクリュのボトルが払底していた。このため2003年産プリムールは買わざるを得ない状況にあった。
ネゴシアン・ジネステのプリムール買い付け責任者、ベルトラン・カルル氏も「ジネステは昨年より5〜6割多くプリムールを買い付けました。2003年産は2002年産とは対照的に大半が輸出に向けられたのが特徴です。特に英国、米国などアングロサクソン市場に大きな需要がありました」と語っている。
さらに、決定的なことはロバート・パーカーが2003年産ボルドー・プリムールに対して極めて好意的な“甘い”評価を与えたことだ。「2001年産、2002年産の販売に関してはパーカーの影響力が衰え、パーカー頼みの市場も変わっていくだろうと噂されていましたが、今年はほとんどパーカーの評価だけで価格が決められたと言ってよい状況です」(鈴田氏)。昨年は、フランスで訴訟問題を抱えていた関係でプリムールの試飲に参加せず、静かだったパーカー氏だが、今年はシャトー・パヴィについて極めて否定的な批評を行ったジャンシス・ロビンソンに噛み付くなど、好戦的な態度が目立っていた。
「5月初めに出た2003年産のパーカーの評価は、英国のジャーナリストのやや否定的な評価に対抗意識を燃やし、極めて高い点数を多くのシャトーに振り割り、ボルドーのシャトーを喜ばせた」と、皮肉る人もいる。
日本市場については、伝統的にプリムール買いに慣れておらず、また、一部の人達が80年代後半にプリムールを買い、その後現物が市場に出てから下落して痛手を負ったことからとても慎重だ。2003年産も日本のプリムール市場は例年に比べ大きく盛り上がった様子は見えない。ボルドーのネゴシアンも、日本市場へのプリムールの売り込みを重視せず、既に現物が出ているワインを売り込む姿勢に徹している。
ところで、ボルドー2004年産の開花は6月初めの好天に恵まれ、かなり早く均一に進んだ。このため、未結実や結実不良は少なく例年になく順調だ。また、昨年、収穫量が少なかったため葡萄の樹勢が強く、房の数がかなり多くなっている。夏の摘房を厳格に行わないとかなり多収穫になる可能性がある。特に、2002年産、2003年産が少なく経済的に苦しいシャトーは2004年産の収穫量確保を最優先する傾向にあり、生産過剰に陥る可能性も指摘されている。 ■