日本ワインの市場
2004年ワイン市場の見通し

 今年1月〜3月のワインの商況は前年同期を上回っている。昨年の第1四半期が悪く、その裏返しという見方もできるが、大方は2003年がワイン消費の底で、今年から少しずつ上向きに転じる予兆ではないかと見ているようだ。そうなら本当に良いのだが。
  関係者は今年のワイン需要を「前年比2〜3%増」と見こんでいる。あまり大きな伸びは見られないものの、長らく続いた低迷から脱する年になると期待しているようだ。ところが、今年1年を見渡しても、ワインにとってあまり大きなトピックスは見当たらない。むしろその方がゆっくりと上向いていく感じがして良いのかも知れない。とはいえ、幾つか話題を拾ってみた。

新しいワインの提案
  かつて日本では、ワインは晴れの日の飲物(けの日、日常の飲物ではない)という考え方が一般的だった。しかし、バブル経済が弾けて以降、ワインの値段が安くなり、1998年の赤ワインブームをピークにして、「ワインを日常的に飲んでください」という提案がきわめて多くなった。ここにきて「この提案の仕方が間違っていたのかもしれない」という考え方がワインのマーケティングに携わる人々の間に浮上してきている。しばらく頑張ってみたが、ワインは日本の家庭の晩酌にはならないというのがその理由だ。
  だから、週末に日常生活から抜け出すための酒として、ゆっくりワインを楽しんでもらう、リラックス&非日常を体感することで癒し効果を得る、という感じの位置付けが日本人の食生活にはぴったりしているのかもしれない。土曜か日曜のうちの1日を、月に2回ほどワインに充てて見ませんかという緩やかな提案でよいのだろう。そう考えてみると、“週末はワインを買って”というコピーは、実は古くて新しいものだった。ところがワインブームで何だか全体が狂ってしまい、適わぬ夢を追いすぎたのだろうか。
  パピオという名前のワインが日本でも販売された。南米に棲息するサルのことで、ラベルにもそのサルの絵がある。カベルネ、シャルドネなどカリフォルニア産ヴァラエタルワインだが、気取らず構えず、もっと気軽にワインを楽しんでくださいという造り手からのメッセージが込められている。いま全米でこの手のワインが人気を博している。火を点けたのはオーストラリア産のイエロー・テイルである。こちらも「黄色い尻尾」という何ともワインには不具合な名前だ。これも今秋には日本上陸を果たす。はたして日本の量販店や消費者はこれらをどのように受けとめるのだろうか。
  アルコールに強くない日本人向けに、容量を少なくして販売する動きもある。500・、375・、200・など様々だ。ボルドーのシャトー元詰ハーフボトルをスーパーの売場に並べる企画も進んでいる。今年はハーフサイズがおもしろい。

値上げか値下げか
  4月1日から義務付けられた消費税の総額表示で、小売店は、てんやわんやの騒ぎになった。総額表示は単なる表示の問題に留まらず、たいへんな手間と投資を小売店に強要する制度変更だった。スーパーなどで一般的になっている980円などの“マジックプライス”は、総額表示になっても維持されるようだ。つまり消費税分(5%)の値下げである。
  一方、生産者(輸入元)が便宜的に用いている「希望小売価格」「参考小売価格」「カタログ価格」などの総額表示はどうするかという問題もあった。しかし、いずれの場合も実勢価格との乖離が非常に大きい現状では、希望小売価格を総額表示に変えることにあまり意味はない、という理由で、現行価格のままとするところが多いようだ。メルシャンが今年から発売したスーパー・ボンマルシェは、総額表示で680円になるような設定だから、今後の新商品にはこういうタイプも出てくるのだろう。
  ワインの輸入元の価格政策で頭が痛いのは、ユーロが依然として円に対して高いことと、製造原価の高騰による生産者価格の引上げ通告である。すでに昨年中に値上げを実施した輸入元もあり、こちらは、「今年は値上げをしない。他社はこれから上げてくるだろうが、当社はすでに一歩先んじているので今年の市場では有利に働くはずだ」とニンマリしている。しかし、昨年は増税などがあったので値上げを見送り、今年に先送りしたところが多い。悩ましいのはこちらだ。
  「当初、1ユーロ=132円とみて計算していた。そこにワイン本体の価格が上昇し、加えて資材費の高騰も無視できない状況になっている。そこで、値上げを実施すべく、年初から細かくアイテムを見なおし、4月には10%引上げのアナウンスをしたいと思っている。しかし問題はこういう環境で、下代(仕切り価格)が販売店にどこまで受け入れてもらえるか。いまのところまだ交渉中だ」と、ある輸入元は匿名を条件に現状を語った。多くの企業に共通する思いである。
  一方、キリンビールははっきりと今年もコストアップ値上げはしないと断言している。その理由はこうだ。
「1年前は1ドル=123円だったが、現在は108円までドルが下がっている。逆にユーロはかつて1ユーロ=118円だったものが132円まで高騰している(為替相場は3月中旬の取材時のもの)。しかし、この間、当社にはドル建ての商材が増えてきて全体の半分近くを占めるようになった。したがって、もしユーロ建てのワインを値上げするのならドル建てのワインは値下げしなければならない。そうでなければ理屈が通らない。今のところユーロ建てワインの総額の方がドル建てより高く、金額ベースでは釣り合わないが、当社が我慢して総ての商材の価格を据え置いた」。なるほど。
  本誌45ページにイタリア、バローロの生産者に対する価格問題のインタビュー記事を掲載したが、生産者サイドでも値上げしたいのはやまやまだが、今はそういう需給環境にはないという判断で、蔵出価格の据え置きを決めるところもあるようだ。

新しい酒販免許
  2003年9月に酒販免許の人口基準が廃止され、酒販業への参入は原則的には自由になった。しかし新規参入を1年間凍結する「逆特区」の指定がなされ、その効果はずいぶん薄まった。しかし、それでも全店免許取得を狙うコンビニや地方のスーパー、新たに参入する郊外型ホームセンター、ドラッグストア、花などの宅配業者などで、昨年9月中に2万件近くの申請があったという。しかし事務処理が滞り、申請者の8割方がウエイティング中とのこと。ただ、役所の年度変わり(4月1日から)を前に、2月にはバタバタと新規免許がおりたという情報もある。いずれにしても今回の申請者は、申請から1年以内に認可されるというから、今年9月までには酒販免許を取得する。
  ただ、2万件の新規免許でワイン需要がすぐに増えるとは考えにくい。ホームセンターやドラッグストアなどが酒販免許を取得する理由は、多くの場合、スーパーやコンビニから客を奪い集めるための“酒コーナー”の設置という考え方だから。その売場に並ぶ酒は自ずと経済酒を中心にしたものになろう。しかし、この売場にまったくワインのスペースがないわけではない。「ここにきてホームセンターからの引き合いが多くなっている。中心は1000円以下の商材で、赤白あわせて数種類といったところ」と語る輸入元もある。
  ともかく今年の9月には新しい売場が揃うのは間違いないわけで、その売場にくまなくワインを配荷するだけで、ワインの販売量は瞬間的には増加する。いわゆるパイプ・フィリング効果が期待できるわけだ。これを実消費と誤認さえしなければよい。
  一方、こうした大きな売場の増加を見越して、外国大手酒類資本の日本事務所(日本法人)が輸入販売免許を取得する動きも出ている。彼らは、既存の輸入元との連絡調整業務を続けながら、日本未輸入商品や量販店PBの直輸入販売業務にも乗り出す構えだ。
  最後にスパークリングワインについて簡単にまとめる。昨年はシャンパーニュは増えたが、それ以外のブリュット(辛口)タイプは減少した。これに対して甘口やアロマティックなタイプは売上を伸ばした。また小容量スパークリングも好調だった。消費者の感覚からいうと、氷結のシャルドネやバレンシア・スパークリングは多分、スパークリングワインの範疇に入っているのだろう。シャンパンを除けば、必ずしも“瓶内二次発酵”にこだわる必要はないのかもしれない。