特集 日本のワイン
2003年 日本産葡萄の収穫結果
- 山梨 -

  2003年の勝沼は4〜5月に雨が多く、「葡萄の樹が楽をした」。さらに加えて8月盆過ぎまでの長雨で畑に病気が拡がり、スプレーの回数は例年よりも多くなった。天気は8月後半には回復したものの、全般に日照時間が少ない年であった。甲州種もこうした影響を受け、収量は平年の10%減。ワインも小振りの出来となった。
  一方、県内の標高が高い冷涼地の葡萄畑の一部では、6月上旬、花が咲き終わった頃に晩腐病に一次感染し、収穫期直前になって症状があらわれた。スプレーが出来ないので、罹患した果実の除去に追われた。

■中央葡萄酒
  明野で欧州系醸造用品種の試験栽培に挑んでいる(17頁参照)同社だが、勝沼では甲州種を使った辛口ワイン開発のリーダー的存在だ。シュール・リー製法でつくられる「グレイス甲州」、勝沼町内標高500m前後の畑の葡萄を小仕込みした「グレイス甲州菱山畑」と「グレイス甲州鳥居平」。そして甲州種を樽発酵した「キュヴェ三澤 甲州樽プライヴェートリザーブ」などがつくられている。
  「甲州ワインは徐々に浸透している。東京市場でも素材を活かした和食店のほか、最近ではイタリアンレストランなどでもプライベート・リザーヴの取り扱いが増えている。甲州ワインはエキス分を最大限引きだしても和食とマッチする良さがある。甲州種特有の渋みは雑味に変わると駄目だが、クリーンな状態であればワインの骨格を形作るプラス要素となる」
  一文字短梢で栽培され、きりっと引き締まったクリーンなミネラル感と、桃やリンゴなどの果実味が豊かな「2002グレイス甲州鳥居平」の製造数量はわずか1000本。同社のワインはケース買いをする顧客が多く、一般市場に回す量はない。セラードアとスクール向けに限定されている。「2002年産はまだ固く開いていないので、熟成が必要だ。醸造にあたっては素直な造りをすることが大事だ。どんなワインも丁寧に綺麗に仕上げれば葡萄の良さがでる。新樽は使っていない」
  「ワインは風土の文化なので、勝沼の甲州は味がこうだというスタイルを確立したい」と考える三澤社長は、昨年、有志を募って「鳥居平甲州ワインをつくる会」を発足させた。会が目指すところは、@糖度18.5度以上の葡萄を使い、A還元糖は2g/以下、B補酸は1g/・以内、C補糖および濃縮はアルコール分2%の範囲にとどめる、D総亜流酸は150ppm以下という条件を満たして甲州ワインを造ること。良い葡萄を確保するために、中央葡萄酒の契約農家6軒をメンバーに加え、会員に開放した。立ち上がりの時点でのワイナリー会員は中央葡萄酒のほか、丸藤葡萄酒、原茂ワイン、フジッコワイナリーの4社だが、正直でごまかしがなく会の趣旨に賛同するところであれば、今後メンバーを増やしていく意向だ。「早く4社共通の味を確立し、品質の高いワインを産み出すことで、鳥居平の名前を大切にしていきたい」。

■勝沼醸造
  フランス醸造技術者協会主催の国際ワインコンクール「ヴィナリー・インターナショナル」で甲州ワインとして初めて銀賞を受賞した勝沼醸造。受賞ワインの「甲州特醸樽発酵1999」は果汁をマイナス20℃で1週間凍らせて凝縮させるクリオエクストラクション法でつくられたもの。2002年産は約2万本を製造したが、この内1万4000本近くは販売を控え、熟成させた上で2005年以降に出荷する。2003年産も約3万本が作られる予定。
  「これまで日本のワインはフレッシュ&フルーティが信条だといわれてきたが、熟成タイプのワインも充分可能だということがはっきりした。今後は特醸樽発酵のワインは3年以上寝かせてから出荷する。これを甲州ワインのスタンダードにしていきたい」と、有賀雄二社長。「赤ワインはF1開発のようなもの。地道な努力と時間が必要だ。当面は甲州種に特化して一樽でも最高のものをつくりだし、甲州ワインが国際的に認められるような存在になるようにしたい」と、夢を語る。
  事実、ここへきて和食高級店での取り扱いがかなり増えているという。「ワインは造り手の考え方を表現したもので、絵画と同様に受け手によって様々な印象を与える。しかし甲州ワインは世界一高い製造コストに加え、おとなしい、優しいという味の固定観念があり、受け容れてもらうのはなかなか難しい。頭や目や耳で味わう日本人が多いが、最近、思い入れの強いものをつくってもそのことをわかってくれる飲み手や流通が増えてきた」。 勝沼醸造では現在、シュールリー、樽発酵、新酒「ヌーヴォー」、デザートワイン「ドルチェ」、そして現在瓶内熟成中のスパークリングワインと、5つの異なるスタイルをもった甲州ワイン計10アイテムをつくりだしているが、甲州種の新しい面をかいま見せてくれるもう一つのワインが「甲州ヌーヴォ ドライ」。2001年産から御坂にある勝沼醸造の長期契約畑「伊勢原」に原料ぶどうを絞り込んで仕込んでいる。熟期が早い葡萄を使いたかったというのがその理由だが、試飲した2003年産ワインはソーヴィニヨン・ブランを思わせるようなフェノール系の香が豊かで、ブラインドで試飲したら10中8、9は甲州種だとは思えない豊かなアロマがある。
  「ここは勝沼醸造の長期契約畑で、河川敷の砂地で水はけが良い。10年以上、土造りに努力を重ねてきた。当初少しは凝縮したが、補糖は一切していない。醸造で手を加えたことと言えば、酸を8g/・に合わせたことぐらいだ」「このフェノールの香は銅と化学反応を起こすので、10円玉を入れると消える。専門化学者によると葡萄の熟期に2週間だけこの香がでるというのだが…」と、有賀社長自身が驚いた表情を隠せない。その理由を解明すべく土壌やクローンの分析を行っているが、ともあれ、甲州種の新しい一面を除かせたワインであることは間違いない。
  「勝沼醸造は甲州ワイン造りに特化します」というキャッチ・コピーをつけて先ごろ発表された同社のミッション・ステイトメント。その骨子は、@勝沼で1280年の歴史をもつ固有品種「甲州」にこだわる、A甲州葡萄から世界に通用する日本のワイン造りをめざす、B甲州では一番といわれるワイナリーをめざす、C和食と合う甲州を世界に向けて発信する、D甲州葡萄の可能性を求め、個性ある多様なワインをつくる、というもの。国際市場を睨んだマーケティング戦略としては、2003年ヴィンテージから容量を現在の720・から国際規格の750・へと統一する。さらに、自社ワインのラベルを「ARUGA」ブランドに統一し、その下で様々なスタイルの甲州種を世界を意識しつつアピールしていく意向だ。
  勝沼醸造が行っているもう一つの試みは畑の確保。勝沼醸造では山梨県峡東地域を対象にしたワイン特区にいち早く手を挙げ、勝沼町内90ha強に自社管理畑を確保した。ひとつはワイナリーがある番匠田の近隣畑で、今年4月〜5月にかけて植樹をはじめる予定。もうひとつは水分地域50アールの畑。メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランなど欧州系赤品種主体に垣根栽培を実践する予定だ。また、甲州種については、勝沼より標高が高く、水はけの良い傾斜地で葡萄栽培を行うことを計画しており、その候補地と土地の手当てを具体化すべく検討中。

■サッポロビール
  7〜8月は低温・寡日照で生育は遅れたが、8月下旬から好天に恵まれ、甲州種などの晩生種は糖度もほぼ平年並に回復し、酸度は高めになった。冷夏の影響が、逆に、個性のない甲州種に複雑性を与えた。甲斐ノワールは例年通りの収穫量。ワイルドで個性的な味わいは通好みだが、樽熟成により柔らかな味わいに変化していく。
  甲州はフルーティで、スッキリした酸味のワインに仕上がりつつある。シュールリーによる味のふくらみも少し出てきた。一部は樽醗酵、樽熟成を行っており、樽による味の複雑さ、ふくらみが出るのを期待している。
  甲斐ノワールは、例年より醸し期間を長めにとり、樽に入れたばかりの段階。これから開いてくるブーケが樽香と調和して上品な味わいになるものと期待を寄せている。