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余話。その3
− テロワールは産地の名声を支えられるか(2-3) −
| さて、「テロワール」とはいったいなにか。これが、たいへん漠然とした概念なのです。まず、日本語に適訳がありません。そればかりか、英語にもないのです。 モエ・エ・シャンドン社が原文を起草・編集し、アシェット社から出版された『ワイン6ヵ国語辞典』は、フランス語のterroirにドイツ語erde、英語soil、スペイン語pago、イタリア語terreno、日本語tsuchi(土)をあてていますが、これは一種の割り切りです。 この辞典の限られたスペースの中での解説は「ブドウ園のブドウの木を育てる」土壌で、これがワインに特徴を与える。Gout de terroir:土がワインに自然に付与する特有の味で、天候が異なる収穫年や、醸造法によっても変わらない一貫したその場所の味」と述べています。これだけでは、この言葉の意味する全貌を捉えているとは、もちろん云えません。 その上、フランス語の語意それ自体に、この言葉を使う人によって、かなりニュアンスの違いがあるんです。なかでも、見解の最も大きく分かれる点は、「テロワール」を「ブドウ畑をとりまくすべての自然環境」と総括した上で、その自然環境に人為の関与を認めるのか、認めないのか、というところにあると思います。 「テロワール」という概念はどんな要素によって構成されているか考えてみましょう。 ブドウ畑の展開する風景を想像して下さいくコルトンの丘とか、メドックのなだらかな起伏とか、モーゼルの蛇行する谷間の急斜面とか、それらをランドサット衛星から見れば地球の表面に自然が造形したレリーフと形容できるのではないでしょうか。このレリーフが地球のどの位置にあるのか、標高や傾斜の方向や勾配はどうなっているのか、といったブドウ畑の占める「場」の在りよう(存在の仕方)はterroirの最も本質的な要素です。 次にその場所の土地の性質、通常は表面を覆う土壌と、その下にある地質、さらにはそこに介在する水分の挙動といったものが、terroirの物理的、化学的特性を決定づけます。 しかし、ブドウ畑の自然環境はこれがすべてではありません。この場所の通年の気温や降水量、日照から得られるエネルギーなど、大地とそこに生育するブドウに影響を及ぼす気象条件もまたterroirの重要な要素なのです。 一見、ここに挙げた要素は自然の側に属するものばかりのように思われます。「テロワール」の本質を、ブドウ畑を介して自然がブドウ果実に賦与する「個性」だと考えることについては、多分、ワインのつくり手に異を唱える人はいないでしょう。ところが、ブドウ畑というのは、人間が自然に働きかけてつくり上げたものです。もし手入れを怠れば、もとの原野にかえってしまいます。「テロワール」という概念に、人為的要因を加えるべきだという主張は、ここから生まれます。 |