余話。その3

伝統産地VS新興産地

− テロワールは産地の名声を支えられるか(2-2)

 以前、銘醸畑の説明に「ミクロ・クリマ」という言葉が、いかにももっともらしく使われていました。ミクロ・クリマは実在するものであり、ブドウの成熟に少なからず影響するものですが、偉大と形容するほどのワインについて、「ミクロ・クリマのお陰だ」といえばそれですべて片付いてしまうというのは実におかしな話です。

 「テロワール」にその心配がないわけではありません。しかし、いま問題となっている事柄は事情がちょっと違います。ここでは、新興産地の瞠目に値するワインに対して、伝統産地のワインが「テロワール」を語ることでアイデンティティを主張できるか、というところに論点があります。しかし、いくら「テロワール」を語ったところで、ワインはおいしくなるわけではありません。ワインがアイデンティティを主張するのは、その品質においてであり、それ以外の何物でもありません。もし伝統産地が新興産地のワインを脅威と感じるのなら、酒質そのものの評価をまず高めておかない限り、切り札に使うつもりの「テロワール」が説得力を持つことはあり得ないのです。

 そして、そうなった場合、「テロワール」はワインの性格を決定づける要因として、「ミクロ・クリマ」よりも現実性があると考えられます。

 ところで、ちょっと話がはずれますが、最近は「ミクロ・クリマ」の用語法が、いまここで使っている意味とは違って、厳密になってきたようです。従来、銘醸畑などある限定された狭い地域に特異的な気象条件が存在して、それがブドウの成熟、ひいてはワインの品質と深くかかわっていると判断される場合、それを「ミクロ・クリマ」と呼んでいましたが、ミクロはもっと小さな範囲を指すようになりました。

 具体的に云うと、ブドウの房の周辺の温度とか湿度、これはキャノピー・マネージメントが行われるようになって、特に関心が強くなってきました。或いは、垣根の条列の方向によって、ブドウ樹の一本一本が受ける風や気温、といったように、まさしく微細な気象を意味する言葉となったのです。

 それに対して従来の「ミクロ・クリマ」は、マクロとミクロの中間、すなわち「メソ・クリマ」と呼びます。もっと端的に、英語では「ブドウ畑の」という意味でsite climate、それから、特定の場所についての気象ですからtopo−climateともいうようになりました。



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