| 話がややこしくならないように、表の上の変化を観察するところへ戻りましょう。 目覚ましいのはメルローの躍進です。カベルネ・ソーヴィニヨンを追い越して、俗にノーブル・グレープ(高貴品種)と呼ばれるブドウの中で、一躍トップに躍り出ました。しかし、これはこの10年間でカベルネからメルローへ流れが変わる特別の事情があったわけではありません。1980年の国別内訳のついたブドウ品種栽培面積表(前号掲載)を見てください。フランスはこの時点で、カベルネよりメルローの方が多いのです。一方、世界全体ではカベルネの方が50%ほど畑の面積が広い。品種の拡散が先行しているんです。 何故かと申しますと、ボルドーの赤ワインは、メドックの方がサン・テミリヨンやポムロールより先に有名になった。そこで、その地域の主力品種だったカベルネ・ソーヴィニヨンが注目された、ということなんですね。もともと、ボルドー全域ではメルローの方が多いにもかかわらず、産地として発信する情報量において、メドックは断然他の地域を圧していた。それで後発の産地はメルローより先にカベルネを植えたんです。ところが、突風土への適応性は、いろいろな要素を総合してみると、どうやらメルローの方がすぐれているらしい。1980年頃、苗木の生産では、すでにメルローの注文がカベルネを超えていて、逆転するのは、もうわかっていました。 情報が偏ったり歪んだりしたために錯覚した例はまだあります。1980年にはセミヨンが13位にありますが、ソーヴィニヨン・ブランはありません。10年後、セミヨンは枠外に落ち、ソーヴィニヨン・ブランが浮上しました。セミヨンの名声はソーテルヌによって、あまねく世に知られています。しかし、それは貴腐ワインとなった場合のことです。辛口の白ワインとしては、ボルドーのネゴシアンの間で、つとにソーヴィニヨン・ブランの評価が高かったのですが、世間にはボルドーを代表する品種といえばカベルネとセミヨンという言説が、いまもまだ尾をひいています。 リースリングが20傑から落ちたのは淋しい限りです。本格テーブルワインにあるまじき「やや甘」と批判され低迷したドイツワインの苦悩が如実に示されていると見るのは思いすぎで、ドイツに見る限りミュラー・トゥルガウからリースリングへの回帰は進んでいるのです。減少はドイツより栽培面積の多かった旧ソビエト連邦及び東欧諸国にあると思われますが、くわしいことはわかりません。 かつて、ボルドーの主力品種の一つだったマルベッタ(コット)は、1980年の時点で殆ど姿を消し、カオールに名残りをとどめるだけとなってしまいましたが、チリやアルゼンチンでは依然として主要な品種であることに変わりはありません。それがコットですが、1980年の面積を維持し続けたとしても、他の有力な品種が台頭する中で、相対的な地位の低下は避けられませんでした。 |